○「まちづくりへの市民参画」について 長野県須坂市
1.概要 須坂市が取り組む「まちづくりへの市民参画」
須坂市は県都長野市から私鉄で20分あまりのところに位置する、人口5万人余の市。以前からそのホ ームページを見て、その活発な市民参画への取り組みを勉強したいと思っていました。
ホームページを見ると、「いきいきすざか」「いけいけすざか」のふたつの顔があり、市役所も元気、そして 市政に参画する市民も、いかにも元気だという印象を強く受ける、そんなページです。今回の視察内容の 前に、まず、このホームページだけでもご覧いただき、丸亀市役所も参考にしてほしいと、まずそのことを記 しておきます。
サイトの中で紹介されている市役所の機構に「政策推進課」と「まちづくり課」というのを見つけ、今回の 視察はこの市役所の機構に着目して、それぞれの課がどのように市民参画の中でまちづくりや政策推進 をしているのか、という角度から、視察させていただきました。
政策推進課では、「街かどリポーター」、市長と語る「虹のテーブル」などの施策、まちづくり課では「好き です須坂!オープンガーデン」、「花のまちづくりコンクール」などについて、それぞれ次のとおり視察しまし た。
2.政策推進課にかかる業務
政策推進課は、これまでの秘書課と企画課を合体させて誕生。「情報を積極的に発信しよう」という市長 の意気込みから、トップダウンで生まれた。
○「街かどリポーター」制度
市民の視点と情報力を活かし、市の広報に広く市民からの記事を掲載して、市民参画を図る。市民が「 街かどリポーター」として、ボランティアで記事・写真を市に提供。市広報やHPに掲載する。
謝礼や報酬は一切なし、費用もすべて自費負担。場合によっては、市からのアンケートに答えてもらう。
○市長と語る「虹のテーブル」制度
区の総会、各種会合などに市長が出向く。
土日祝日、夜間も可、一回1時間程度。テーマは設けず、折々の課題、話題とする。会場費は主催者負 担。
市長のほか、各地区に担当サポーターがおり、同行する(部課長級が配置される。現在69名)。
これまで、「虹のかけ橋」という市長への手紙の制度と、「地域づくり市民会議」に年一回、市長が各地区 に出向くという制度があったが、それを統合して「虹のテーブル」が生まれた。
副題に「じっくりとお聞きする行政」とあるように、主に市民の声を聞くことに主眼が置かれている。
16年度の開催実績を見ると、主催者は各地区のほか、商店街組合や任意の市民団体、PTAなどとなっ ている。年間28回、参加者延べ717人。
話題はごみのポイ捨て、合併、商店街活性化、いじめ不登校、通学路、市職員の姿勢、市営住宅、道路 など、生活にまつわる各般に及んでいる。市への陳情の形になることもある。
○「50円の詩(うた)」事業
副題は「はがきに綴るあなたの想い」。市制50周年とはがきの50円を掛けて、「市民誰もが気軽に想い を表現し、多くの人に伝える取り組み」。
地元放送局と郵便局が後援する事業。
内容は、これまで50年を振り返っての想い、現在の暮らしに関する想い、未来への願いなど。個人の想 いでも市への想いでも可。はがきに書き込める程度の字数とする。
優秀作を審査のうえ、HPなどで発表。応募は32人から44作品があり、入賞3点、郵便局長賞、放送局 賞各1点がそれぞれ決定された。
○「まちづくりわいわい塾」
何か言いたい、何かしたいと考える市民が自由に参加。「わいわい・がやがや自由に討論し、そこから政 策を市に提言していこう」というもの。
市では平成12年度に、市総合計画に反映させる市民の声をもらうために「まちづくり懇話会」を開催した が、計画が策定された後、13年度以降はこの「塾」の形でこれを引き続き実施することとなった。
13年度、公募ワークショップ形式、16名応募+職員4名。6回開催。
14年度、同形式、22名登録+職員22名。職員についてはこの年、特に若手中心に声をかけ、参加して もらった。6回開催。
15年度、公募等で20名+職員10名のメンバー。テーマを「協働」と決めて討論。8回開催。この他にメ ーリングリストの形式でも11名が参加してネット上のわいわい塾も行った。
16年度、参加14+職員8名。8回開催。市制50周年記念事業として、須坂市を記録する「いま、須坂」 の製作に参画。
17年度、「いま、須坂」完成、これまでの活動を集大成。市長に政策提言を行う。
3.まちづくり課にかかる業務
前者「政策推進課」が主に公聴業務を中心に展開されていたのとは別に、まちづくり課では緑化事業を 核に市民の参画戦略を展開している。まちづくり課の中に、公園緑地係、都市計画係を位置づけている。
○「好きです須坂!オープンガーデン」
市内100箇所に市民手作りのフラワーロード、花壇が整備されている。
昨今のガーデニングブームにも乗り、せっかく丹精込めた市民の労作を紹介しながら、交流を図るという もの。
市の推進する「花と緑のまちづくり事業」の下に、花と緑のボランティア講座、種子・花苗の援助事業のほ か、次に紹介する花のまちづくりコンクールやコンテナガーデンコンテストも展開している。
「オープンガーデン」は、自慢の庭を市が紹介し、市民に開放して、見てもらおうという企画。
これと連動して「ボランティア講座」を開催。年10回の実技講座。土づくり、植え方、水遣り、除草などを学 ぶ。その受講者がさらに各地区で講師を勤める。毎春募集し、年1度は近県に視察にも出かける。3月に は反省会を行う。
さらに「花苗、資材の援助事業」も行う。公共施設内や道路沿線に花を植えてくれる市民に、お金でなく 苗、肥料を助成し、あとの費用は各団体負担とする。市道や県道脇の残地利用の花壇作りにも助成。
こうした、これまでの事業の延長として、17年度に「オープンガーデン」を企画した。老人会に「残地」利用 を働きかけ、また市職員も「できることから始めよう」と、市役所近隣の残地公園に交代で水遣りに出かけ るなど、実践に加わっている(市職員「花結いの会」。カンナ街道)。
これに伴い、まちづくり課に専門指導員(嘱託)1名を配置。
「オープンガーデン」に登録したものはまちづくり課がカラー版で案内マップを作成、市民に鑑賞を呼びか けている。
○「花のまちづくりコンクール」
今年で9回目となる。
市を花で美しくし、地域で花壇やフラワーロードづくりに取り組む市民や団体の励みとなるよう、また緑に 親しむ市民の気持ちを高めるために、この事業を行う。自分が作るだけでなく、人の作品に触れることで刺 激を与え合うという効果もある。
条件は、市内であること、外から見えること、プロの作品でないこと。
部門を6つ設ける。大規模、中規模、小規模、プランター、育成会、学校。
写真で応募する形式。その上で現地審査を行う。
部門ごとに金銀銅賞、佳作を選び、表彰。
前記、市から助成を受けている団体は必ず参加してもらうようにしている。たとえ枯らせて失敗したとして も、よその作品を鑑賞してもらうだけの参加でも、お願いしている。
17年度、72団体・個人からの応募あり、45団体を表彰。
○「コンテナガーデンコンテスト」
「コンテナ」と題した理由は、「持ち運びができる」こと。
平成14年、「すざか花フェスタ」を開催。これを契機に、市民の力作で、持ち運びができるものを1箇所に 持ち寄り、1週間展示する。
前記「花のまちづくりコンクール」と一緒に表彰。最優秀1、優秀2、佳作3点。
市教育委員会が共催、老人クラブが後援、新聞社、ケーブルテレビ会社、青年会議所が協賛。
4.感想
こうして出張報告を書きながら、視察当日いただいた資料にもう一度目を通していて、あらためて発見することもあります。
冒頭の「街かどリポーター」制度の、市民の申し込み様式を読んでみると、須坂市では5種類もの「メールマガジン」を発行していることに気づきました。 市長コラム「虹のほほえメール」、防災防犯メール、報道メルマガ、市動物園からのメールマガジン、そして観光情報「信州須坂の花だより」この5種です。
視察当日、このことをお聞きできなかったのは今さらながら残念に思いますが、ともあれ、市がこのように積極姿勢で市民に「発信」していることが、象徴的なことだと思います。
丸亀市でも合併初年度である本年、いよいよシビアな行財政改革に取り組み、また合併による新市建設、総合計画策定などの作業も進んでいます。そのような中に頻繁に、「市民との協働」という言葉が謳われますが、須坂市に学ぶ限り、まず市役所がどれだけ、市民に「乗って」いただける工夫をするか、そこにまだまだ、丸亀市の欠いている部分があるように、強く思われます。
このメルマガを始め、そのほかにも、
○市長の積極的に市民に臨む姿勢、部課長がそれぞれの住む地区のサポーターに任じられているという この仕組み。
○市の、あのにぎやかなHPの製作にも市民が一役買っているということ。
○にぎわい塾のメンバー、つまり市民と職員が意見を出し合い、「くらしの道案内〜困った時の手助けファ イル」と名づけた市役所案内パンフを作っていること。
○公園緑地係、都市計画係が、「まちづくり課」の傘下に位置づけられていること。
○庁舎の前庭や庁舎2階のプランターなど、市民と共に育てていること。また職員も「カンナ街道」水遣りに 参加していること。
○コンテストでは老人クラブが後援、青年会議所が協賛など市民参画の戦略が成功し、定着していること。
などなど、工夫と努力を重ねた結果、応募者数が思ったほどに伸びなかったなどの反省も踏みながら、今日に至っているという印象を受けます。
一方、市内を走る県道もありますが、県にはまたアドプト制度が準備されており、市内が花でいっぱいなのに県道だけは寂しい、廃れている、ということもないようです。
こうした運動をさまざまに連動させながら、課題を克服しながら、飽くなき立案と挑戦を続けている、という頼もしい市役所の姿勢に、感服させられます。
沿線のポイ捨ては減少し、そして「花壇を作れば周辺もキレイになる」という経験則が市民に定着すると、もう市民運動はすっかり軌道に乗ったものと言っていいのでしょう。現に、市民から積極的に、市内のシンボル的な公園では市民が「ごみ拾いの日」を定めて、ボランティアに汗を流しているそうです。
視察時間の後半では、市内各所を車で案内していただき、市民の取り組む「現場」を見させていただきました。
何も気にせず、道路を走れば、それは見過ごしてしまうほどの、ささやかな取り組みかも知れません。しかし点が線となり、また面となっていくときに、須坂市は確かに、花と緑に豊かに飾られた街となっていることに気づきます。そして何より、そこに市民が投じた汗や力が、無言のうちに、存在をアピールしているように思えました。
信州長野はそれ自体、緑豊かな地方ではありますが、市民手作りの花と緑のまちづくりにとっては、田舎とか都会とかは関係ないと思いました。どんなに緑豊かな地方であっても、ポイ捨てがあり、寂れた雑草の風景があれば、決して住む人の心豊かとは言えないでしょう。
そこに、市役所が仕掛け人となり、本当の豊かなまちづくりを練っていく必要性があるものと思います。行財政の効率性だけの観点から改革を進めるのでなく、こうした面からの市民満足度にも、ぜひ傾注していかなければならないと思います。
丸亀市においても行政当局の積極果敢な挑戦の姿を、早く現実のものとしてほしいと念じます。